某国は、国がデカイから シベリアのように寒い地域やカンボジアのような亜熱帯の地域まで様々な気候風土が存在し多様である。輸入に頼らなくても スイカやイチゴなどは、1年中スーパーに並ぶし 西部のハミウリも1年を通して楽しめる。温室栽培も盛んであるが 費用をかけて栽培するより 寒い地域と暖かい地域は陸続きなのでトラック輸送で何でも流通ができるのである。この寒い地域で必需品の石炭も輸入に頼る石油と違い  産地からの直接のトラック輸送が盛んである。暖房にも使われる石炭は豊富な国産資源として某国各地に採掘鉱があるからだ。

 某国、冷房設備に関しては全国的に電化され都市部でのクーラーの普及率は、先進国以上のレベルにあるが、暖房設備については、寒さの厳しい華北地域と暖かい華中以南の地域では暖の取り方自体に大きな違いがあるのである。

某国首都(華北になる)に赴任したばかりの頃 アパートが探すまでの間 仮の宿としてマンション形式のホテルに1か月ほど滞在したが すでに12月に入っていたので暖房が効いていた。この暖房は、お湯を通すセントラルヒーティング方式で効きがよく 部屋の中は、いつも暑いぐらいでパンツ一枚でも生活できた。中と外の温度差は、夏の冷房の効いたオフィスと暑い室外との温度差に近いものがあり 急に寒い外に出れば血圧が急激に上昇していたと思う。

昔 父母から「北海道は寒いけど 部屋はいつも石炭ストーブが利いていて熱いぐらいで 半袖で良かった」という思い出話を聞いたが まさにここがそうだったのである。違うのは、石炭の使い方・・・日本の場合 昔から石炭をストーブに入れて使ってきたが 某国には、寒い華北地域でも 石炭・石油ストーブ、ガスストーブといったたぐいの石化燃料ストーブは一切売っていない。学校や病院など公共施設でも その手のストーブは一切見かけない、石化燃料を使うストーブ販売は禁止されているのである。あるのは 性能の悪い電気ストーブかオイルファンヒーターだけ。

では どうやって暖を取るかであるが 某国には、町の区域単位で暖房用のお湯を供給する施設があり煙突が立っている。そこで石炭は、お湯を作るために燃やされ 大量のお湯をパイプで各マンションやビル、公共施設に送っているのである。このお湯がマンションの部屋の隅々まで行きわたり 部屋を暖めている。

華北の各都市には、○○熱力集団という政府直轄の企業があって 暖房用のお湯を石炭で沸かしてはパイプで各ビルに送る組織と設備を持っているのだ。

話がそれるが、首都にあるこの熱力集団本部には、たまたま何度も仕事で行ったので ビル内部の状況について詳しくなった。当時新築された本部ビルは、高層ビル丸々1社で使い 最上階には、董事長室があった。ここには、16畳はあろうかというトイレ兼浴室が設置され超豪華な内装だった。しかも 同フロアには、大きなビリヤードルーム、カフェテラス、バー施設、レストランがあって最高幹部達は、社費で贅沢ができる仕組みである。某国の政府系企業は、一般的に.このような世間離れした贅沢をこっそり行っていた。ではなく「いる」・・現在進行形。

胡同など古い町並みを除き 近代化された市街地は、ほぼ町ぐるみのセントラルヒーティングが行きわたっている。おまけにガラス窓は、ほぼ二重構造でしっかりできていて 壁もレンガが入っているので暖房効果抜群といえる。使われたお湯は、下水管を使って捨てられるが この捨てられたお湯を無断で再利用する輩もいたのですごいと思った。彼らは、マンホールの蓋を開けてお湯をバケツで取り出し あちこちで路上洗車サービスを展開している!実にたくましい商売根性ではある。

 某国の首都をはじめ 北部の都市は、全てこの方式を取っているため 前述した各地方政府の熱力集団の傘下、区域ごとに温水を生産して送り出す工場は非常に大量の石炭と水を消費している。但し 各家庭が暖房で直接火を使用しないため火災防止策としては有効で マンションやオフィスビルでストーブが原因で火事になりましたと言う事は少ない。もし 石油ストーブが自由に使えたら闇灯油の流通、偽物灯油の販売、灯油の不法備蓄などが横行するだろうから あちこちで火事発生となる。当局も某国人の性格をよく分っているから流通しないように 燃料ストーブに規制を掛けたわけである。

では某国の都会では庶民が直接石炭等を消費することはないのか・・・簡単に街を眺めただけでは分りにくいが 実は、某国首都の中心付近でも町のあちこちに取り残されたようなスラム街が存在する。地方から出稼ぎに来ている農民工と呼ばれる人々は、こうしたところに集まって暮らす。当然ここには、セントラルヒーティングは無い。未だに昔懐かしい練炭 木炭が主役なのである。郊外の農村(某国首都は広大な農村をも包括している)も同じく練炭と石炭、場所によってはプロパン・薪を暖房・厨房用の主力として使う。よって 統計にも出てこないが 一酸化炭素中毒で死ぬ人も未だ多いのである。某国首都でさえ 近代化された中に時代に取り残されたような場所が 沢山あるのだ。

セントラルヒーティングのお湯供給施設は、冬季に稼働を始め春先まで動く。最近は、天然ガスを使うタイプに変わってきているが まだまだ石炭が多いようだ。期間は、各地で微妙に違う場合もあるが 概ね11/15から一斉スタートし 翌年の3/15で終了する。このひと冬の暖房費は、各家庭から前金で徴収され約4000元(一冬)程度である。農民工には、厳しい値段で 年金生活者にとっても重い負担である。支払えなければ バルブは開放されず恩恵に与かれない。11月になると管理会社から連絡があり バルブの開放作業が入る。お金を払っていない場合は、お湯は元栓から出てこない。しかし 同じマンションでも各戸状況が違い 投資目的で買った戸は人は住んでない為、内装工事もせずスケルトン(コンクリ打ちっぱなしのまま)状態で放置しているので暖房は不要である。各戸状況が違うため管理会社は、11件チェックしていく。

 最近は、石炭による重度の空気汚染が問題になって 首都など重要地域からLPGを燃料に変えるように切り替わってきている。但し ボイラーの構造がまるで違うので 切替には相当なコストが掛るだろうし 財政の厳しい地方都市ではその負担に耐えられず しばらくは石炭が主力で行くはずだ。

各地方政府は、このお湯供給施設の運用を統一化して効率を上げようとするので 寒かろうが 暑かろうが(暑いことはないが・・)基本的に政府が決めた11/15暖房スタートは変わらない。ところが 某国首都などは、厳冬の時は10月中旬から消え込むので 暖房がスタート前の時期と 3/15に暖房がストップした後もしばらくは寒さが厳しいので 暖房のない期間がものすごく寒いのである。

特に寒かった某年の冬 私は、たまらず家電量販店に暖房器具を買いに行ったのだが 売っているのは、オイルファンヒーターか ものすごく電気を食う電気ヒーターだけであった。その年はオイルファンヒーターを購入したが サイズがでっかい割に全く効きが悪い、しかも2か月で故障である。結局 分厚い毛布を買い込んで寒さをしのぐことになった。ところが セントラルヒーティングが効き始めたら たちまち暑くなって分厚い毛布など用無し・・・実に無駄な出費を重ねることになったのである。

某国の金持ち連中は、冷暖房兼用のクーラーを購入するし 厨房用の都市ガスを利用した床下暖房を入れているので 時期に関係なく寒さを凌げるが 一般大衆は、毎年 ブーブー言いながらこの時期を過ごす。首都や天津などの華北地域は、それでもこうした公共の暖房設備の恩恵に与かれるが 上海などの比較的暖かい華中以南の地域(とはいっても緯度的には、福岡ぐらい)は、それさえもない・・・マンションのガラスも扉も隙間だらけなので 冬は首都より寒いそうである。もちろん 家電店には大量に消費される見込みもない暖房器具などは、取り揃えていないので 庶民は寒さ対策も取れない。特に20161月は、酷い寒波が南の広州まで来たので 普段何の用意もできていない華中以南の市民は、寒さに震えたそうである。

農村ではもっと深刻である、昔 勝手に木を切らせていたらすべての山が禿山になってしまったという苦い経験から 地方では、農民に勝手に樹木を切らせないよう厳しい規制を設けていて たとえ自分が植えた木でも申請し許可を得ないと切れない規則があるのだ。無許可で切れば罰金、2回目以降は、刑務所に入れられることもある。従って冬暖房に使う薪は、政府が認めた機関から購入するしかない。これと石炭などを併用して暖房に使うのだが 収入の少ない農村では、この薪や石炭でさえなかなか買えないのである。豊かな農家では問題ないが 貧農は、冬を越すのでさえ大変なのだ。

こんな状態であるから 寒さに苦しむ庶民は地球温暖化などと言われてもピンとこないし 自分たちとは関係ないし考えようともしない。それよりなにより まずは、どうやったら目の前の寒さを凌げるかの方が大事なのである・・・南極の氷が解けて 海抜が低い天津とか上海が水に沈み始めたら 政府も少しは考えだすかもしれないが その時は、もう遅い・・・

                                    (201632日 記)

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ボクの某国論
其の十七 町中セントラルヒーティングの悲哀